新しいスタイルの精神病院を目指して
いぬお病院は、佐賀県鳥栖市の閑静な住宅街に位置する
精神科病院である。
156床を持つこの建築は、その規模を感じさせない様相で
静かな佇まいを見せており低層建築によって周辺環境との調和が
図られている。
また外側に用いた木調のダブルスキン構造は、
病室からの視線など周辺住民への建築的な配慮を行うと共に、
近寄りがたい印象を持つ精神科のイメージを一掃することを
目的としている。建替えにあたり病院側から2つの課題が示された。
ひとつめは、精神科に通院する患者の抵抗感を感じさせない
環境の創出であり外観から待合ホールに至るまでの空間デザインは、
そうした抵抗感を無くせるようにカフェのような気軽さを持ち合わせた。
ふたつめは、旧病院での病室に引きこもりがちな閉鎖型の入院生活から
社会復帰を促進する開放型の入院生活へと転換できるプログラムであり、各病棟に憩いの場として性格の異なるラウンジを配置するなど
旧病院では見られなかった患者同士の積極的な日常会話が行われる事で、新病院では病室に引きこもる患者が圧倒的に減少し、
社会復帰の達成率も大幅に高まっている。
当初は移転新築の構想で始まったこのプロジェクトは、
精神科というハードルの高さから新天地での移転計画は
幾度も挫折を繰り返し、最終的には既存敷地での建替えの決断に至った。
構想から完成まで8年の歳月を費やしたこのプロジェクトは、
既存不適格建築物から現行法に適合する建築審査会を経て、
3期に渡る工事と3度の仮使用許可を受けながら、
完成した建築はデザインが統一されたひとつの建築として
仕上がっている。
精神病院という用途の特性からしても
デザインが生み出しにくい施設で、従来のあり方とは異なる
アプローチで取り組んだこのプロジェクトが、
これからの精神病院が目指すひとつの指針になればと願っている。