小屋の間
KOYANOMA
小屋の間は、福岡県糸島市の長閑な集落の中に計画された、
写真家である友人家族のスタジオ兼住居である。
平日はとても静かなこの場所も、敷地の南側には人気の茶屋が位置し、
週末になると多くの観光客が訪れる事から、
適度なプライバシーを保ちながらも開放的な暮らしを可能とする
住環境が求められた。また過酷なコストから建築を建てるだけが
限界であった為、外構は友人の手に委ね、
建築の手法によってこの場所が持つ課題を解決したいと考えた。
そこで建築を敷地の対角上に配置し、
分節されたふたつの領域( 集落側に開放された外庭と
山側のプライベートな内庭) を建築に内包された土間によって
緩やかにつなげ、領域間に生じる「間」によって
視覚的な解決策を講じると同時に、開放的な住環境を獲得しようと
試みた。建築の骨格は、
1間半のモジュールが連続する単純な架構で構成されている。
その中の3つのグリッド(3間×3間) を室内とし、
その間に外部化された土間空間と内部化された土間空間を挿入し、
平面ではスタジオと居住空間が独立した状態を保つ一方で、
断面では連続する小屋組みによって互いの領域が分断する事なく、
ひとつながりの空間として場が拡張していく状態を創り出している。
外部化された土間空間は、スタジオに訪れる客人や集落の人々を
迎え入れる空間として用意され、
打ち合わせや日常会話の場として機能し、外庭から内庭までつながる
門のような役割を持つ。
また内部化された土間空間は、建具を全開すると外部へと転換し、
夏場は風道となる外部として過ごし、
冬場は寒気を制御する風除室として内部で過ごす。こうした性格の異なる土間空間は、
この場所の環境に順応しながらさまざまな用途として機能する。
20世帯にも満たない田舎の集落に建つ職住一体型の建築とし、住人の生活の為だけの建築ではなく、
土間空間を他者とのコミュニケーションの場としても設えることで、
この建築は集落内の各世帯や遠方の他者とも繋がりを持つ。
例えば職場は都心、住宅は郊外のベッドタウンという現代どの都市にでもみられる環境において、そのベッドタウンに建つ住宅は、
住人の生活の為だけの建築であるため、隣家等の近隣住民とですら繋がりが希薄な状態が往々にしてある。
近年プライバシーやセキュリティの問題が唱えられて久しいが、それでも尚、この集落に近隣住民間での繋がりが残っていたことや、
若い夫婦がこの地に職住一体型の建築を構える覚悟に導かれるように、
土間空間は確実に活きている。
この建築が、集落の在り方を持続可能とする新たな事例として、
既存の集落内の環境への影響はもちろんのこと、
これから建ち替わる可能性のある各住宅の指標となることを願っている。
小屋の間では、切妻屋根の極限まで抑えられた深い軒によって
室内は静寂な空間へと転換され、
土間からの反射光や小屋組の上部から漏れる光の陰影が、
暮らしに彩りをもたらしている。