天草の週末住宅
Weekendhouse in Amakusa
熊本県の天草諸島の辺境の地に建つ週末住宅である。
敷地は、南西側に波の穏やかな内海を眼前に臨み、
島原湾の向こう側には雲仙岳が構え、北側の背後には
岩肌の崖が連続する環境下にある。
建て主は、こうした自然環境の中で、
家業引退後の余生を過ごす海の別荘を望まれた。
建築は、この場所の持つ固有性を読み解きながら、
敷地の前面にそびえ立つ岩山のように、はじめからこの地に
逞しく佇んでいたかのような、ソリッドなコンクリート造とし、
海の水平性を意識した型枠W1800mm×H450mmの基本モジュールによって、全ての骨格が定められている。
また、建築を海側に限界まで寄せる事で、
まるで海の中に存在するかのような純度の高い、
場の状態を創り出す事を意図している。
外観の表情は道路側と海側では全く異なり、コンクリートの塊のような闇の世界観から内部へと導入される。
扉を開けるとコンクリートの壁が外側まで拡張された内庭が現れ、
外部との接触を徐々に増幅しながら通り抜けた先に、
島原湾の広大な海の風景へと辿着く。
その瞬間は自然の中に溶け込んでいくかのように
身体までもが開放されていく。
そうした、この場所でしか存在しない特別な居場所を創り出す事が、
この建築の主題であった。
週末住宅という用途の性質上、不在の時間が長いことから
メンテナンス性においても、さまざまな建築的配慮を行った。
コンクリート造を採用したのは、塩害対策への基本的性能を
担保する事を目的としているが、
その他にも海側の大開口に深い軒を設ける事で外壁やガラス汚染の対策、樋の葉詰まりが生じない雨水経路など、
建築がその在り方で自らの性能を脅かすことがないよう、
ディテールの検討も積み重ねた。
この場所のように、水平線が果てしなく続く広大な環境と、
小さな建築とのスケール的関係性が保ちにくい状況において、
ここではコンクリートの壁が建築を超えた領域まで拡張する事で、
そのスケール的調停を図りながら、
特別な世界へと導かれる状態を生み出したいと考え、
想い描いたプロジェクトであった。